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東京高等裁判所 平成9年(く)99号 決定 1997年5月08日

少年 N・H(昭和52.4.7生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成名義の抗告申立書並びに附添人弁護士○○、同○○連名作成名義の抗告理由書及び抗告の理由書(補充)に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

第1少年の抗告趣意中、事実誤認の主張について

論旨は、(1)原決定は、少年が本件被害者であるAを金属バットで殴打したと認定したが、少年は金属バットでAを殴打したことはない、(2)原決定は、少年が暴走行為を行い、また、本件の際に、少年がAの車に同乗していた2名の者を金属バットで殴打して怪我を負わせたり、その車の窓ガラスを壊したり、あるいはその車や財布を盗んだと認定したが、少年はそのようなことをしていないから、原決定には事実の誤認がある、というのである。

そこで検討するのに、(1)については、原決定は、少年がBら数名の者と共謀の上、Aに対して、金属バットでその頭部等を殴打するなどの暴行を加えて、Aに傷害を負わせた旨認定しているのであって、少年自身が金属バットでAを殴打した旨認定しているわけではないから、少年の主張はその前提を欠くものである。そして、関係証拠によれば、少年とBら数名の者との間で本件傷害についての共謀があったことは疑う余地がないところであるから、原決定には何らの誤認もない。次に、(2)については、原決定が非行事実として認定したのは、Aに対する傷害の事実のみであることがその判文上明らかであるから、少年の主張するところが非行事実についての誤認をいうのであれば、主張自体理由がないことになる。しかし、要保護性の基礎となる事実についての誤認があるという主張にも解されるので、さらに検討する。まず、少年が暴走行為を行ったという点についてであるが、関係証拠によれば、少年はかつて暴走族「○○」の総長として主導的に暴走行為を繰り返し、本件当時はそのOBの立場にあったが、平成8年12月中旬頃、埼玉県の暴走族のリーダーから「初日の出暴走」の誘いを受けてこれを承諾し、「○○」の現役の総長に連絡し、同月30日同人らとともに代表者の集まりに出席して集合時間や場所などの暴走行為の計画決定に参画したこと、少年は本件当日、暴走族風に改造した自己の自動車で参加し、「○○」や埼玉県の暴走族集団の多数のバイクや自動車とともに首都高速から中央自動車道に入って走行したこと、出発に際しては後輩に予備のガソリンを準備するよう指示したりしたことなどの事実が明らかであり、原決定が、少年が暴走行為を敢行したとし、これに主導的に関与したと認定したのは当然であって、この点についての原決定の認定には何らの誤認もないというべきである。なお、付言するに、所論は、暴走行為と共同危険行為とを混同して論じているように思われるが、原決定のいう暴走行為というのは、多数の車両を連ねて走行する集団走行を意味しているのであって、もとより原決定は犯罪を構成する共同危険行為を行ったことまでを認定しているものではない。次に、本件の際に、少年がAの車に同乗していた2名の者に金属バットで殴打して怪我を負わせたりなどしたという点については、原決定は、少年自身がそのような行為をしたともそれに関与したとも認定していないのであって、本件の際に少年の仲間らがそのような行為に及んだ経緯があることを判示しているにすぎない。そして、本件が契機となってそのようなさらに凶悪な事態が生じたことを本件の悪質性を示す一つの事情としていることが明らかである。この点についても原決定の認定には何らの誤認もない。論旨は理由がない。

第2少年の抗告趣意中、処分の不当の主張及び附添人の抗告趣意について

論旨は、要するに、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである。

そこで、検討するのに、本件は、保護観察中で、かつて暴走族「○○」の総長であった少年が、他県の暴走族の誘いに応じていわゆる「初日の出暴走」を計画し、多数の暴走族仲間と集団暴走行為を敢行している際に、先輩格の者の自動車が当て逃げされたことから、「○○」に所属する後輩ら数名の者と共謀の上、被害者が当て逃げをした者の仲間だと因縁をつけて、頭髪を掴んで被害者を無理矢理車から引きずり出し、無抵抗の被害者の頭部等を金属バットで殴打するなどの執拗な暴行を加え、被害者に全治1週間を要する頭部打撲等の傷害を負わせたという悪質かつ危険な事案である。

少年は、平成元年3月に父母が離婚して母子家庭となり、その成長を生き甲斐と感じた母から甘やかされて育てられ、躾が十分でなかったようで、中学入学後、基本的な生活習慣が乱れ、恐喝やバイク盗などの非行(バイク盗については平成4年4月に審判不開始処分)、喫煙、深夜徘徊、怠学などの問題行動を起こすようになった。平成5年4月に高校に入学したのちも少年のこのような態度は改まらず、不良仲間と一緒になっで暴走族「○○」を結成し、その後自ら総長となって主導的に暴走行為を繰り返し、同年6月には喧嘩をしたことにより無期停学処分となったことから高校も退学し、まもなくして石材店に勤め始め、同年9月には家を出て高校の同級生の女性とアパートで同居するようになった。そして、平成7年1月に少年は総長として「○○」を率いて無免許の上、共同危険行為を犯し、また、同年3月には交通上の些細なことに因縁をつけて、暴力団員や暴走族仲間と一緒になって2名の者に傷害を負わせる非行を犯したため、逮捕、観護措置の上、同年4月、在宅試験観察に付された。その後約9か月にも及ぶ指導を受け、表面的にはおおむね順調に推移したため、平成8年1月、少年は保護観察処分となり、引き続き前記の石材店で働きながら前記女性との同居生活をしていたが、暫くして保護司のもとに来訪しなくなったり、暴走族仲間との交遊も再開するなど保護観察を軽視するようになり、このような経過の中で、集団暴走行為を敢行している際に、些細なことから本件の傷害事件を引き起こしたものである。そして、少年の家庭状況等をみるに、母親は少年に対する愛情は十分あるものの、保護観察後も少年に高級車を買い与えるなど甘さがみられ、また、同居中の女性は少年と同年齢であって、本件暴走行為の際にも少年の車に同乗するなどしている状況であり、これらの者に少年の監護を期待するのは困難であるといわざるを得ない。

以上の事実から明らかなように、本件非行の悪質性・危険性、長期間の在宅試験観察や保護観察の指導によっても少年の問題傾向が改善されずに前回と同様の非行を犯していること、原決定が正当に認定判断している少年の性格・資質、少年の内省の不十分なこと、保護者等の適切な監護が期待できないことなどを考慮すると、少年をこのまま放置することは到底できず、少年に対して健全な社会的価値観を体得させるためにはこの時期にある程度の期間の専門教育が是非とも必要と考えられる。そうすると、少年が仕事は真面目にしていたことなど少年に有利な事情を斟酌しても、不良仲間との接触を断たせた上で、問題点の認識と内省を深め、改善させるべく専門的なカリキュラムに従った矯正教育を施すことがもっとも少年の福祉にかなうとして、少年を中等少年院に送致した原決定に不当なところはないというべきである。

所論は、少年は原決定後成人に達したところ、成人として刑事処分を受けるとすれば本件は罰金または執行猶予付きの懲役刑に処せられる事案であるのに、保護処分に付されたためにかえって中等少年院で約1年間の拘禁生活を送らせることとなって、行った行為と処罰との間に余りにも均衡を失する結果となり、少年の納得も得られないから、本件については検察官送致の措置をとることが本人の更生にとって最良の途であると主張する。しかしながら、処遇の選択に当たっては、所論が主張するような少年の年齢や被害結果の程度だけではなく、本件非行の内容やその経緯、少年の生活歴や保護処分歴、少年の性格・資質、保護者等の監護能力などの少年の要保護性をも総合的に考察して決定すべきであり、このような観点からみると、本件が要保護性の極めて高い事案であることは明白であって、少年の将来を考えれば保護処分の可能なラストチャンスともいうべきこの時期に是非とも専門教育を受けさせることが必要であると判断することには相当な理由があると考えられる。所論は目先のことにとらわれた主張といわざるを得ず、採用できない。論旨は理由がない。

よって、本件抗告を棄却することとし、少年法33条1項、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 門野博 裁判官 下山保男 福崎伸一郎)

抗告申立書<省略>

〔参考1〕抗告理由書

平成9年(少)第654号

氏名N・H

右の者に対する傷害等審判事件について、付添人らの抗告の理由は次の通りである。

平成9年4月15日

右付添人 弁護士○○

同 弁護士○○

東京高等裁判所 御中

理由

一 本件審判事件において少年であった少年を中等少年院に送致する旨の決定がなされたが、右決定に不服の理由は量刑不当であるので、次の通り理由書を提出する。

二 少年の保護環境

1 少年は、昭和52年4月7日にN・S及びN・K子夫婦の長男として生まれ、地元の○○高校に入学した。

両親の折合いが悪く、平成元年3月20日に離婚し、以後、親権者である母N・K子に姉N・O子と共に養育され、N・K子は、九州にいる実父I・Jを住居地に呼び寄せ、実父の協力を得て姉弟を経済的にも精神的にも何不自由なく育ててきた。

しかし、夢中になって頑張っていた少年野球の監督から父親の悪口を言われたことから、これを契機に野球を止め、次第に学業よりも他の世界に興味を持つようになった。

高校生になってから少年は、事件当時も勤務していた○○石材工業(代表・C)にアルバイトに行くようになり、右仕事が気に入り、本業とする為に親にも相談して高校を中退した。

N・K子は、高校は卒業して欲しいとの気持ちがあったが、本人の強い希望を受け容れ、これを許可した。

2 少年は、○○石材工業において墓石基礎工事一式の仕事に精励し、以来4年、社長の信頼も厚く片腕として業務に従事してきた。

本件事件を惹起した後も、C社長も上申書を提出して、今後の監督や今後も従業員として雇傭することを誓約してくれている。

また、N・K子も、少年鑑別所へも何回も面会に赴いて本件行為を叱責し、傷害事件の被害者への見舞金送付など、親としてできる限りのことはしている。

また、少年の今後のことについても、親としての協力は惜しまないつもりであり、今後の保護環境は極めて良い。

三 本件犯行の動機等

1 少年は日頃、○○石材工業に真面目に勤務しており、今回も保護観察中の身分でもあるから保護司の下へも真面目に通い、生活も充分律していた。

ところが、先輩などから行ってみないかと誘われ、遂、誘いに乗って本件現場に行くこととなってしまった。

現場では、集団心理から、少年も被害者Aを数回殴ってしまうなどの暴行を奮ったりしたが、その他は、被告人は手を出していない。

2 本件は、保護観察中の事件であり、もと々本件現場に行ったこと自体責められるべき案件であるが、今迄努力してきたことを水泡に帰す結果となったことについては、充分反省し、後悔している。

しかし、本件は、現場における集団心理から惹起された偶発的な案件であって計画的なものではない。

四 その他

少年は、昭和52年4月7日生れで、平成9年4月7日の経過により成人に達している。

本件は、むしろ成人としての立場で処断されるべきであり、量刑は罰金又は執行猶予つき自由刑として処罰されるべきものと思われる。

短期少年院の弊害(少年院の更生プログラムではなく、少年院で知り合った者との将来の交遊関係から惹起されることが予測される不法行為)も言われていることであり、是非とも成人として処罰された上で、前記保護環境下で社会生活における更生の機会を付与されるのが本人の更生にとって最も良いと判断される。

よって、原決定を破棄の上、通常成人事件として処分されたく本件抗告に及んだものである。

〔参考2〕抗告理由補充書

平成9年(少)第654号

氏名N・H

平成9年4月25日

右付添人○○

同○○

東京高等裁判所 御中

抗告の理由(補充)

1 本件犯行の動機・態様

少年は、当日、自車(セルシオ)に婚約者D子を乗せて本件に参加した。

年末に書士山からの日の出を見る為のもので、いわゆる「初日の出暴走」といわれているが、少年は、暴走族○○のOBとして参加したから、皆で車を走行させ、場合によったら暴走行為になるかもしれないが、その場合にはそれにも参加するという気持があったことは否定できない。

しかし、現実には、暴走行為はしていない。

本件傷害事件は、少年の知人Eの車がCBXというバイクに乗った者に追突され、本件被害者Aが右の仲間と勘違いされたことから発生した。

被害者Aの車に近付いて、運転席のAを車外に連れ出したのは暴走族○○のメンバーのFであり、「暴走族○○」という刺繍の制服を着ていた。

また、B、Gも同様の服装をしており、同人らもAのもとに近付いた。

少年は、Aが既に車外に連れ出された後に近付いて数回足で蹴った。少年は白と黒のウインドブレーカーを着ていた。

足で蹴った当時、F、G、Bらが金属バットを持っていたことは記憶していた。少年は、右の通り、数回蹴った後は手出しをせず、Aの車の近くで他の者の暴行を見るような感じとなった。

間もなく、相手の車よりも前方の方に停車してあった自分のセルシオに乗り込んでその場を離れた。

従って、車の盗難や物品の盗難については現認していないし、指示をしたような事実もない。

当時現場は、午後8時頃で暗く、車のライトにより人の顔がようやく識別できる状況であり、誰がどのような暴行を奮ったかはた易く識別できる状況ではなかった。

少年は、Aが車外に連れ出され、暴走族○○の現役の後輩から暴行を奮われていたのを見て、自分も暴行を奮ったが、右の通り、数回の蹴り以外は手出しをしておらず、後は、暴走族○○のメンバーや埼玉県から来た者など他の者が暴行を奮ったものである。

しかし、被害者Aの受傷軽度が1週間と軽症なことからすれば、その傷害の態様は比較的軽微であり、それなりに加減して抑制をもって暴行に及んだもので、原審の決定が、「殺されるのではないかと思うはどの恐怖感をもった」と被害者らが述べていることをそのまま引用して本件暴行を過大に評価していることは肯認できない。

また、少年は手出しをしても、第三者に更に暴行を奮うよう指示した事実もないし、他の第三者の行為は各々が責任を負うべきであって、少年の非行事実と同一視されるべきではない。

原決定は、少年が指導的に本件に関与した旨の認定もなしているが、この点も前記の通り誤りである。

2 保護環境について

少年の母N・K子は、市会議員の秘書として勤務しており、離婚したことによる子供に対する負い目もあり、少年の為にこれ迄できる限りのことをしてきている。

子供に車を買い与えたが、何れその代金は子供から返還してもらう約束であり、無下にそのことを拒否しても、他人の車を乗り回したりしたら同一であるとの親心からである。

また、D子との同居については、結婚を前提に認めたもので、既に4年ものあいだ生活をしており、多少若いとの批難はあっても、それを超える愛情により結び付いていると評価しても良い期間を経過している。

本件事件の後も、N・K子は長女N・O子と共に少年鑑別所に、また、少年院へと足繁く通っており、子供に対する愛情は人一倍である。N・K子の性格は、几帳面で善悪については厳しく少年に教えてきており、原決定が、子供との関係について「十分な躾がされていない」等の一面的な見方をしていることは肯認できない。

子供に対して愛情が豊かであることは、保護環境としては最良の条件である。

なお、D子は地元のデパート○○に真面目に勤務しており、本件に同伴したことは責められるべきではあるが、違法行為が行われることは、D子は承知しておらず、このことをもって一概に保護環境が悪いとまでは言えない。

なお、エアロパーツ、アルミホイルの取付けは本件が惹起された後になしたものであるが、若者らしい車を飾りたいという見栄からのもので、洋服や装身具の購入と同一感覚であって、そのことを直ちに非行に結び付けることは一面的見方である。

3 その他

本人の性格、行状についても原決定は一面的である。

少年は、石材店に長年勤務し、社長の信頼も厚く仕事に根気がある。

暴走族との関係は、平成7年3月に暴走族○○の総長を退任以後は交流がなく、平成7年12月の「初日の出」にも参加していない。

今回は、OBとして参加する羽目となったが、ファミリーレストラン○○の打ち合わせに出ることとなったのは、埼玉の知人から暴走族○○と打ち合わせをしたいので、そのメンバーを紹介してくれとの連絡があり、その紹介の為に右レストランに出向いた。その結果、本件当日も参加することとなった。

このことについては、本人も軽率であったと反省している点であるが、それまでの間、右暴走族○○と交流していた事実はない。少年は、勤務先での仕事が力仕事で、朝早くから夜遅く迄必死に働いており、また、D子との結婚準備の為にそれどころではなく、自分自身の生活の基盤を作ることが先決であった為である。

本件は、被害者に対する1週間程度の傷害を与えた事案であるのに、中等少年院で約1年間の拘禁生活を送らせることは、あまりにもその処罰が重すぎるといえる。

行った行為と処罰との間に均衡がとれなければ、保護処分を受けた本人も納得せず、有効な矯正手段とはなり得ない。

本件の場合、母N・K子、勤務先の社長、婚約者D子何れも二度とかかることのなきよう監督する旨誓約していること等も考慮されて、原決定を破棄の上で相当な処分をされたい。

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